「また今日も泣いちゃった……。お願い、隣の人、怒らないで……!」
毎晩、夜泣きが始まると、私の心臓はバクバクと音を立てていた。 引っ越してきたのは半年前。隣の部屋には、いかにも今風な若いお兄さんが住んでいる。派手な改造車に乗っていて、夜遅くに帰ってくるときはいつもエンジンのマフラー音が「ブォン、ブォン!」と重低音を響かせてアパートの駐車場にこだましていた。
――「あんなにいかにもヤンチャそうな兄ちゃんだし、赤ちゃんの夜泣きなんて絶対嫌がるよね……。絶対に苦情を言われる、いや、下手したら怒鳴り込まれるかもしれない……」
毎晩の夜泣きを聞くたびに、私はビクビクと怯えて暮らしていた。産後で精神的にも不安定だった私は、子供が泣くたびに「ごめんなさい、ごめんなさい」と心の中で隣の部屋に向かって謝り続け、ノイローゼ寸前だった。夫は単身赴任で頼れる人もおらず、孤独な育児のプレッシャーで涙が出る日も多かった。
そして迎えた、ある日の午後。 ポストを覗くと、見慣れない一通の手紙が入っていた。 「うわっ、ついに来た……! 苦情だ……!」 手が震えながらも、おそるおそる封を開けて中を見ると、そこにはルーズリーフをちぎったような紙に、丁寧だけど少し不器用な字でこう書かれていた。
え……? 苦情どころか、こちらを気遣う優しい言葉だった。 「泣き声は全く気にならない」「逆に自分の車や生活音で赤ちゃんを起こしていないか心配」だなんて。
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