小雨が降っていた朝、私はいつものように売上金を入金しに行く準備をしていた。
封筒の中には、数日分の現金。大きな金額ではないけれど、仕事で預かった大事なお金だった。ところが、封筒を開けた瞬間、指先に少しだけ湿り気を感じた。
「このまま入金機に入れて、もし詰まったら面倒だな」
そう思ったのが、すべての始まりだった。
本来なら、乾いたタオルで挟むとか、しばらく置いておくとか、いくらでも方法はあったはず。
なのに、そのときの私はなぜか焦っていた。銀行の窓口が混む前に済ませたい。入金機でエラーを出したくない。そんな気持ちが先に立って、つい電子レンジの扉を開けてしまった。
「数秒だけなら大丈夫でしょ」
そう思って紙幣を入れ、ボタンを押した。
チン、と音が鳴った瞬間、嫌な予感がした。慌てて取り出してみると、紙幣の端にあるホログラムの部分が、さっきまでと違う光り方をしていた。角度を変えると、妙にくすんで見える。まるで熱で浮いたように、細かな部分が歪んでいた。
「え、うそ……」
声が出た。手の中にあるのは、さっきまで普通に使えるはずだったお札。けれど今は、入金機に入れるどころか、店で出すのもためらう状態になっていた。
慌ててスマホで調べると、紙幣が破れたり汚れたりした場合、銀行で確認してもらえることがあると出てきた。ただ、故意に傷めた場合はどうなるのか、はっきり分からない。私はさらに不安になり、そのお札を透明の袋に入れ、通帳と身分証を持って銀行へ向かった。
窓口で順番を待つ間、心臓が落ち着かなかった。番号が呼ばれ、私はできるだけ冷静に事情を話した。
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