夕方、保育園へ迎えに行ったとき、子どもの顔を見た瞬間に胸がざわついた。
頬に、赤く腫れた跡があった。丸い虫刺されというより、上下に少し跡が並んでいるように見える。私は思わずしゃがみ込み、子どもの頬をそっと確認した。
「これ、どうしたの?」
子どもはまだ小さく、うまく説明できない。ただ少し困った顔で、私の袖を握った。
近くにいた先生に聞くと、先生はちらっと見て言った。
「腫れてるので、蚊じゃないですか?」
その一言で、余計に違和感が強くなった。蚊に刺されたなら、もう少し場所や形が違う気がする。しかも頬の中心あたり。室内で過ごす時間が長いはずなのに、なぜ顔にこんな跡がついたのか。
私はその場で怒鳴らなかった。まずスマホで写真を撮った。時間が分かるように、迎えに行った直後の写真と、園の連絡帳も一緒に残した。
家に帰ってから、明るい場所でもう一度見た。やはり、ただの虫刺されには見えない。子どもにゆっくり聞くと、「お友だち、いやってした」と小さく言った。
胸がぎゅっとなった。
翌朝、私は園に連絡し、園長先生も同席してもらうようお願いした。写真を見せ、昨日の説明と子どもの言葉を静かに伝えた。
すると担任の先生は最初、「見ていないので分かりません」と繰り返した。けれど園長先生が保育室の記録と当日の配置表を確認すると、午睡明けの自由遊びの時間に、子ども同士の接触があったことが分かった。
さらに、別の先生が「その時間、少し泣き声がありました」と話してくれた。
園側は改めて確認し、結果として、他の子が頬に噛みついてしまった可能性が高いと説明してくれた。
担任の先生からは、最初にきちんと確認せず「蚊では」と済ませてしまったことへの謝罪もあった。
相手の子を責めたいわけではなかった。小さな子ども同士なら、噛むことが起きることもある。大事なのは、何が起きたのかを曖昧にしないこと。そして次に同じことが起きないよう、見守り方を変えてもらうことだった。
園長先生は、遊びの時間の配置を見直し、噛みつきが出やすい場面では先生が近くにつくこと、傷や泣き声があった場合は必ず保護者に報告することを約束してくれた。
その日の帰り、子どもはいつも通り私の手を握って歩いた。頬の跡はまだ少し赤かったけれど、私の中の不安は少しだけ落ち着いていた。
親が気づかなければ、ただの「蚊」で終わっていたかもしれない。
怒鳴らず、でも流さず、写真と言葉を残して確認する。それが、子どもを守るために必要なことなんだと思った。