母がくれたマグカップが割れた日のことを、私は今でも忘れられない。
水色の丸いカップだった。
ふたには小さな猫の顔がついていて、持ち手も少し変わった形をしていた。おそろいのスプーンまでついている、見ているだけで笑顔になるようなマグカップだった。
母が誕生日に贈ってくれたものだ。
「これ、かわいいでしょ?」
母は嬉しそうに紙袋を差し出した。
「何これ、猫じゃん!」
「そう。あなた昔から猫が大好きだったでしょう?」
「うん、かわいい!ありがとう!」
「やっと猫を飼えるようになったって聞いたから、何か記念になるものをあげたくてね」
私はその言葉が本当に嬉しかった。
子供の頃から猫が大好きだった。
でも、実家では事情があって飼えず、結婚後も住んでいたマンションがペット禁止だった。
引っ越して、ようやく念願の猫との生活が始まったばかりだった。
母はそのことを覚えていてくれた。
「お店で見つけた瞬間、あなたの顔が浮かんだの」
「お母さん、ありがとう。大切に使うね」
「割らないように気をつけてよ」
母は笑っていた。
私はそのマグカップを食器棚の一番取りやすい場所に置いた。
毎朝コーヒーを飲むたびに、母の顔を思い出した。
ところが夫は、そんな私を見て時々嫌そうな顔をした。
「またそのカップ?」
「うん。気に入ってるから」
「子供っぽいデザインだよな」
「かわいいじゃん」
「まあ、お前が好きならいいけど」
当時は、その言葉も気にしていなかった。
夫は昔から、私の好きなものをあまり理解しようとしない人だった。
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