モラハラ夫と義母が、朝からそろって出かけた。
玄関のドアが閉まる音を聞いた瞬間、私はしばらくその場から動けなかった。いつもなら、夫の足音が遠ざかっても、義母の忘れ物チェックが始まる。廊下を戻ってきて、「あんた、また何か隠してるんじゃないの」と部屋をのぞかれることもあった。
でもその日は違った。
車のエンジン音が遠ざかり、家の中に本当の静けさが戻った。
私は深く息を吸い、押し入れの奥に隠していた小さなバッグを取り出した。
中には、子どもの母子手帳、保険証、通帳、印鑑、少しずつ抜いて貯めた現金。それから、夫に怒鳴られた日の録音を入れた古いスマホ。義母に「嫁のくせに逃げ場があると思うな」と言われた日の日記も入っている。
この家で、私は何度も自分がおかしいのだと思わされてきた。
夫は外では優しい人だった。近所の人には笑顔で挨拶し、職場では家族思いの夫として通っていた。でも家に入ると、別人のように変わった。
「誰のおかげで生活できてると思ってる」
「子どもを置いて出ていけ」
「お前みたいな母親じゃ子どもがかわいそうだ」
義母も一緒になって私を追い詰めた。
「息子を怒らせるあんたが悪い」
「嫁は我慢するもの」
「帰る実家なんて、まだあるの?」
最初は泣いた。次に謝った。最後には、何も言わなくなった。
でも、子どもが夫の足音を聞いただけで震えるようになった日、私は決めた。
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