「最低賃金、また上がりました!」
ニュースでは、まるで明るい話題のように流れていた。
私は夕飯の支度をしながら、その言葉に思わず手を止めた。確かに時給は少しずつ上がっている。求人票にも、数年前より高い金額が並ぶようになった。
でも、通帳を開くたびに思う。
じゃあ、私の手取りは増えた?
答えは、増えていない。
むしろ、生活は前より苦しくなっている。
スーパーに行けば、卵も牛乳もパンも高い。前は何も考えずに買っていたチーズやハムも、今は値札を見て一度戻す。洗剤もトイレットペーパーも、気づけば数十円ずつ上がっている。
「最低賃金が上がったんだから、生活も楽になったでしょ」
職場の休憩室で、店長が冗談みたいに言った。
私は笑えなかった。
私のパート代は、たしかに時給で見れば昔より上がっている。でも、社会保険料、税金、家賃、電気代、ガス代、食費。全部がそれ以上の速さで上がっている。
給料明細を見ると、総支給額は少し増えているのに、控除欄の数字も一緒に膨らんでいた。
結局、手元に残るお金はほとんど変わらない。
その日の帰り、私はいつものスーパーに寄った。
かごに入れたのは、半額シールの惣菜、特売のもやし、値引きされた鶏むね肉。子どもが好きなヨーグルトは、しばらく手に持ったあと棚に戻した。
レジで合計金額を聞いた瞬間、胸がぎゅっとなった。
「え、これだけで?」
思わず小さく声が漏れた。
店員さんは申し訳なさそうに目を伏せた。きっと同じような反応を、毎日何度も見ているのだと思う。
家に帰ると、夫がテーブルに給与明細を置いていた。
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