「えっ、もう倒すの!?」
離陸して、わずか5分。
私は窓の外を楽しみにしながら、ほんの少しだけ目を閉じていた。
そのとき、目の前の座席が突然、グーッと後ろに倒れてきた。
「……え?」
顔を上げると、前の席に座っていたのは、0歳の赤ちゃんを連れた若い夫婦だった。
旦那さんが何も言わずに、座席を思い切り倒していたのだ。
もちろん、座席を倒すこと自体が悪いわけではない。
でも、ひと言もなく、いきなりここまで倒されるとは思わなかった。
私の目の前には、座席の背もたれ。
せっかくの窓側席なのに、視界がすっかり遮られてしまった。
今回、私がわざわざ窓側の席を指定したのには理由があった。
富士山を見るためだ。
飛行機から眺める富士山を楽しみにして、座席まで選んだ。
離陸後の景色を写真に収めようと、スマホも準備していた。
それなのに、離陸からたった5分でこの状態。
「せめて、ひと言くらいあってもいいんじゃない……?」
心の中でそうつぶやいた。
前の夫婦は、こちらのことなど気にする様子もない。
赤ちゃんをあやしながら、2人で普通に過ごしていた。
赤ちゃんが悪いわけではない。
小さな子どもを連れての飛行機が大変なのも分かる。
だからこそ、私は何も言わずに我慢していた。
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