駅へ向かう途中、歩道の端に貼られた一枚の紙が目に入りました。
最初は、ただの落とし物の張り紙だと思いました。けれど、近づいて読んだ瞬間、胸の奥が少し温かくなりました。
そこには、手書きの文字でこう書かれていました。
「ここで5000円落とした方 交番に預けています!」
たったそれだけの文章でした。
でも、その一文から、拾った人の行動がはっきり見える気がしました。
道に落ちていた5000円を見つけて、ポケットに入れるのではなく、交番へ届けた。さらに、落とした人が気づけるように、わざわざ紙に書いて、その場所に貼った。
そこまでしてくれる人がいるんだと思うと、朝の慌ただしい道が、少し違って見えました。
その紙の前で、年配の女性が足を止めていました。
「まだこういう人がいるんやね」
小さくそうつぶやいて、女性は微笑みました。
私は思わずうなずきました。
でも、その直後、後ろから来た男性が紙をちらっと見て笑いました。
「5000円くらいで大げさやな」
その言葉に、少しだけ胸がざわつきました。
5000円くらい。
でも、誰かにとっては、その日の食費かもしれない。
子どもの集金袋に入れるお金かもしれない。病院へ行くために握りしめていたお金かもしれない。
金額の大きさより、落とした人がどれだけ困っているかのほうが大事だと思いました。
私はその紙の写真を撮りました。
顔も個人情報も写らないように、文字と地面だけが入るように。
もし誰かの目に留まれば、落とした人に届くかもしれない。そんな気持ちで、近所の人が見られる場所にも共有しました。
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