8歳の次女が、やけに真剣な顔で私の前に立った。
手には小さな自由帳。もう片方の手には、色鉛筆をぎゅっと握っている。
「お母さん!」
その声があまりにも改まっていたので、私は洗濯物をたたむ手を止めた。
「なに?」
すると次女は、少し胸を張って言った。
「私のファンクラブ、入らない?月額30円だよ」
一瞬、部屋の空気が止まった。
ファンクラブ。
月額30円。
8歳の口から出るには、あまりにも完成度の高い営業文句だった。
私は笑いそうになるのをこらえながら聞いた。
「ファンクラブに入ったら、どんな特典があるん?」
次女は待ってましたと言わんばかりに、自由帳を開いた。
「描いた絵とかもらえるよ!描いてほしい絵があったら、何枚でも描くよ!」
その説明の仕方が、妙にしっかりしていた。
ただお小遣いがほしいだけなら、「30円ちょうだい」で終わるはずだ。なのに、ちゃんと月額制にして、特典まで用意している。
私は腕を組んで、わざと悩むふりをした。
「うーーーん……」
すると次女の顔が少しだけ曇った。
その表情を見て、私は一瞬迷った。
可愛い。ものすごく可愛い。
でも、ここで簡単に入会したら、明日から新しい有料サービスが次々と始まる気もする。
「肩たたき会員、月額50円」
「お手紙読み放題、月額100円」
そんな未来が頭をよぎった。
断るなら、傷つけずに断りたい。
私は言葉を探した。
ところがそのとき、次女が急に明るい声を出した。
「お姉ちゃん、入ってくれたよ!」
「え?」
「しかも、50円の特別会員にもなってくれた!」
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