「これ、明日までに払っておいて」
夜21時、夫が何気ない顔で封筒を差し出してきた。
私は洗い物の途中で手を止めた。子どもの水筒を洗って、明日の弁当の下ごしらえをして、ようやく一息つけると思ったところだった。
「明日まで?」
聞き返すと、夫は少し気まずそうに目をそらした。
「うん。忘れてた」
封筒の中には、支払い用紙が入っていた。期限は明日。
金額は1万3800円。
私は一瞬、言葉が出なかった。
こういうものは、たいてい数日前には届いている。いや、もっと前に届いているはずだ。それをなぜ前日の夜21時に出してくるのか。
しかも、こういう日に限って財布の中には2000円しか入っていない。
「なんで今?」
私が静かに聞くと、夫はスマホを見ながら言った。
「いや、払えばいいだけじゃん。コンビニで」
その一言で、胸の奥がじわっと熱くなった。
払えばいいだけ。
たしかに言葉にすれば簡単だ。でも、そのお金をどこから出すのか、明日の朝の予定をどう変えるのか、財布に現金がないときにどうするのか、そこまで考えるのはいつも私だった。
私は手を拭いて、封筒をテーブルに置いた。
「今、財布に2000円しかないよ」
そう言うと、夫は少し驚いた顔をした。
「え、下ろせば?」
「もう21時だよ。明日の朝、銀行寄る時間あると思う?」
明日は子どもの登校準備がある。私は朝からパート。夫はいつもより早く出ると言っていた。支払いはコンビニでできるけれど、現金が必要な用紙だった。
夫は黙った。
私は怒鳴らなかった。
ただ、冷蔵庫に貼ってある家計メモを外して、テーブルに置いた。
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