「俺は悪くない」
夫がそう言った瞬間、台所の空気がぴたりと止まりました。
床には割れたマグカップ。テーブルの上には、飲みかけのコーヒー。壁際には、怯えた顔で立っている小学生の息子がいました。
その日、私は夕方から残業で帰りが少し遅くなりました。家に着いたのは19時過ぎ。玄関を開けた瞬間、いつもと違う重たい空気に気づきました。
リビングに入ると、息子が小さな声で「ごめんなさい」と繰り返していました。夫は腕を組んでソファに座り、明らかに不機嫌な顔をしています。
「何があったの?」
私が聞くと、夫はすぐに言いました。
「こいつが俺のコップを割った。注意しただけだ」
でも息子の目は真っ赤でした。注意された程度の泣き方ではありません。
私は床の破片を片付けながら、息子に静かに聞きました。
「本当に落としちゃったの?」
息子は一度夫の顔を見ました。そして、また黙りました。
その様子を見て、私は違和感を覚えました。
夫は昔から、自分のミスを認めるのが苦手な人でした。買い物を頼んでも間違えたら「メモが分かりにくい」。寝坊しても「起こさなかったお前が悪い」。
子どもに強く言いすぎても「しつけだ」。
そのたびに私は、場を収めるために飲み込んできました。
でも、この日は違いました。
息子が小さく震えていたからです。
私は夫に言いました。
「防犯カメラ、確認していい?」
うちは以前、玄関先のトラブルがあってから、リビングの入口付近にも小型カメラを置いていました。普段は留守中の確認用で、家族も存在を知っています。
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