最初にその写真を見たとき、私は本気で二度見した。
便座の前方が大きく開いていて、便器の奥にはなぜか金属の部品が取り付けられている。清潔感はある。白くてピカピカしている。けれど、見慣れたトイレとは明らかに違う。
「みなさんの様々な意見を取り入れ、利便性を追求した結果、この様な意匠となりました」
その一文を読んだ瞬間、笑っていいのか、感心していいのか分からなくなった。
きっかけは、職場のトイレに対する小さな不満だった。
「掃除しにくい」
「男性も女性も使いやすい形がいい」
「便座の前が汚れやすい」
「もっと合理的にできないのか」
休憩中の雑談で出た意見を、施設担当の男性がなぜか真に受けた。彼は普段からものづくりが好きで、壊れた棚も、ぐらつく椅子も、自分で直してしまうタイプだった。
最初はみんな、軽い冗談のつもりだった。
「じゃあ、究極のトイレ作ってくださいよ」
誰かがそう言うと、彼は真顔でうなずいた。
「分かりました。利便性を追求します」
その時点で、周囲は少し嫌な予感がしていた。
数日後、トイレの入り口に「調整中」の紙が貼られた。中では工具の音がしていた。ガガガ、キュイーン、カンカン。まるで小さな工場だった。
「まさか本当にやってる?」
「いや、便座交換くらいでしょ」
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください