息子が駅で財布を落としたのは、10月上旬のことだった。
夕方5時過ぎ、学校から帰ってきた息子が青ざめた顔で言った。
「お母さん、財布がない」
「えっ、どこかに置いてきたの?」
「分からない。駅の改札を通るときまでは持ってたと思う」
息子の財布には、現金約6,000円と学生証、交通系ICカードなどが入っていた。
私はすぐに駅へ連絡した。
すると幸いなことに、財布はすでに拾得物として届けられていた。
「よかった……!」
駅員さんによると、男性が駅構内で拾い、窓口に届けてくれたらしい。
翌日、息子と駅へ向かった。
財布の中身を確認すると、現金もカードもそのままだった。
息子はほっとした顔で言った。
「拾ってくれた人、優しいね」
「本当だね。ちゃんとお礼を言わないと」
私は心から感謝していた。
そのときは、まさか後になってこんなことになるとは思っていなかった。
数日後、拾得者へのお礼について連絡する機会があった。
「財布を届けていただいて、本当にありがとうございました」
電話の向こうの男性は、最初は穏やかだった。
「無事に戻ってよかったですね」
「息子もすごく喜んでいます」
ところが、次の言葉で空気が変わった。
「それで、謝礼はどうしてもらえますか?」
「謝礼、ですか?」
「拾った人には報労金を請求する権利があるでしょう」
私は少し戸惑った。
制度について詳しく知らなかったからだ。
「すみません。確認してからお返事してもいいでしょうか」
すると男性は言った。
「銀行振込でいいですよ。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください