金曜日の午後7時過ぎ。
仕事帰りに友人と焼き鳥を食べようという話になり、駅近くの飲食店街を歩いていた。
「今日は焼き鳥がいいな」
友人がそう言った。
「いいね。最近食べてなかったし」
ちょうど目の前に、こぢんまりとした焼き鳥屋があった。
赤い提灯が下がり、店内からは香ばしい匂いが漂っていた。
「ここ、よさそうじゃない?」
私がそう言って入口に近づいたときだった。
ドアに貼られた紙が目に入った。
『当店は呑み屋です』
その下には、さらに大きな文字でこう書かれていた。
『必ず全てのお客様にお酒のご注文をしていただきます』
「……えっ?」
私は思わず立ち止まった。
友人も横から貼り紙をのぞき込んだ。
「全員がお酒を頼まないといけないの?」
「そう書いてあるね」
さらに読み進めると、もっと強い言葉が並んでいた。
『水だけでいい、我慢する』
『焼き鳥が美味しいと聞いた、等の理由は一切受け付けておりません』
『どうぞ他店へ行かれてください』
私は友人と顔を見合わせた。
「すごいね……」
「ここまでハッキリ断る店って珍しくない?」
私もそう思った。
居酒屋では、ドリンクの注文をお願いされることがある。
ワンドリンク制の店も珍しくない。
しかし、ソフトドリンクではなく、必ずお酒を注文してほしいという方針は、あまり見かけない。
「私、今日は飲まないつもりだったんだけど」
友人が言った。
「どうして?」
「明日、朝早くから用事があるから」
「じゃあ、この店には入れないね」
「そういうことになるよね」
私たちは少し離れたところで話し始めた。
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