「お母さんは棺桶にいます。毎日、歌が聞こえます」
小学校の国語の授業で、先生は1枚の紙を見つけた。 そこには、子どもの字で3行だけ書かれていた。 「おかあさんは かんおけにいます」 「まいにち うたがきこえます」 「ねるまえに よんでください」 先生は最初、子どもが怖い話を書いたのだと思った。 けれど、最後の一文が気になった。
「寝る前に読んでください」 いったい、誰に向けて書いたのだろう。
その日の放課後、先生は書いた本人の少年、悠太を呼び止めた。 「悠太くん、この文章はどういう意味なの?」 悠太は少しうつむいて答えた。 「お母さんのことだよ」 先生は言葉を失った。 悠太の母親は、3か月前に亡くなっていた。 葬儀にも、先生は参列していた。 「お母さんは、もうお墓にいるんじゃないの?」 悠太は首を横に振った。 「違うよ。お母さんは棺桶にいるんだよ」 その言い方が、先生には妙に引っかかった。 「それで、毎日歌が聞こえるって?」 悠太は小さくうなずいた。 「夜になると聞こえるんだ。お母さんが、僕に歌ってくれていた歌」
先生は、悠太の父親に連絡した。 父親は電話口でしばらく黙り込んだあと、低い声で答えた。 「息子は、まだ母親の死を受け入れられていないんです」 それ以上、詳しい話はしなかった。
翌日、先生は悠太にもう一度尋ねた。 「その歌は、どこから聞こえてくるの?」 悠太は教室の隅を指さした。 「家の奥の部屋。お父さんは、あそこには入るなって言うんだ」 先生の背筋が冷たくなった。
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