西成に行くたび、必ず立ち寄るうどん屋があります。
初めてその店を見たとき、正直少し入りにくい雰囲気がありました。昔ながらの店構えで、通りには独特の空気が流れていて、店主もぱっと見はかなり迫力のある人でした。
けれど、店先に貼られた一文を見て、足が止まりました。
「食事に困っている方には、かけうどん一杯無料で提供します」
それを見た瞬間、胸の奥が少し熱くなりました。
あとから知ったのですが、その店を営んでいるのは元暴力団員の方だそうです。過去に何があったのか、詳しいことは分かりません。でも今、その人はこの街で、腹を空かせた人に温かいうどんを出している。
それだけで、私は十分だと思いました。
それ以来、西成に来ると、私はなるべくこの店で食事をするようになりました。特別な高級料理ではありません。湯気の立つ、素朴なかけうどんです。でもこの店で食べる一杯は、いつも少しだけ心に残ります。
その日も私は、カウンター席でうどんを食べていました。
外は少し冷えていて、店内に入った瞬間、だしの香りがふわっと広がりました。器から立ちのぼる湯気を見ているだけで、体の力が抜けていきます。
店主は相変わらず無口で、見た目は怖い。でも動きは丁寧でした。常連らしき人には短く声をかけ、初めて来たような人にも変に構えず、同じようにうどんを出していました。
私が半分ほど食べたころ、隣に座っていた男性が会計をしました。
年配の、少し日に焼けた顔の人でした。
店主が釣り銭を出そうとした瞬間、その男性は手を振って言いました。
「釣りはかまへん!活動の足しにしてやってくれや!」
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