「誰にも知られたくないから、ホテルの部屋を取ってそこで話そう」
その文章を見た瞬間、手が止まった。
最初は、私もただ事情を確認したかっただけだった。
相手が既婚者だと知らずに会っていたこと。
そのことを奥さんに言わないための誓約書とは何なのか。
どんな内容を書かせたいのか。
きちんと説明してほしかった。
だから私はメッセージで聞いた。
「奥さんに言わないための誓約書ってことですか?どんな内容なのか詳しく知りたいです」
すると返ってきたのは、謝罪でも説明でもなかった。
「できれば直接話したい。今日の夜って会える?」
ここまではまだ、話し合いのつもりなのかと思った。
でも続きの文章で、背中が冷たくなった。
「誰にも知られたくないから、ホテルの部屋取ってそこで話そう。別に変な意味じゃないからね」
変な意味じゃない。
そう書いてあるのに、場所はホテル。
しかも夜。
私は画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。
さらに彼は続けた。
「嫁にどう話すか、セリフも一緒に練習したい」
「念のため身分証持ってきて。住所と勤務先も確認したい」
その瞬間、これは普通の話し合いではないと思った。
既婚者だと知らなかった私に、なぜ身分証を持ってこいと言うのか。
なぜ住所や勤務先まで確認されなければならないのか。
なぜ奥さんへの言い訳の練習を、私がホテルですることになっているのか。
意味が分からない。
怖い。
でも、すぐに怒りのメッセージを返すのは危ないと思った。
私は深呼吸して、画面をスクショした。
時刻が分かるように全部保存した。
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