朝の情報番組で穏やかな口調の国分太一が読み上げるニュースよりも、はるかに冷たく重い現実が、背筋を凍らせる速さで日本中を駆け抜けたのだ。舞台は上海。二百名規模のスタッフが五日を費やして積み上げた巨大なステージは、幕が上がる直前の午前に、無慈悲な一文で凍結された。「公演中止」。準備の汗も、観客の期待も、音の鳴る前に切り落とされた。
だが物語はそこで終わらない。浜崎あゆみは、客席が空であろうと、アンコールが呼ばれない静寂であろうと、歌を選んだ。照明が落ち、客席が暗いままでも、彼女は一曲、また一曲と積み重ね、最後にはアンコールの位置まで歌いきった。彼女が短い声明で記した「自分の知識のない部分に口出しするつもりはありません」という一文は、政治に安易に寄りかからず、しかし職業倫理から退かないという、鋭い覚悟の輪郭だった。

中止は連鎖する。文化交流も、音楽イベントも、果ては自衛隊が関わる航空ショーまでが「参加見合わせ」の影に飲み込まれていく。
バンダイナムコの大型フェスでは、歌が鳴っている最中に音が途絶え、マイクが奪われ、歌い手が舞台袖へと押しやられた。舞台上に置いてきたのは、未練ではない。観客の前で唐突に断ち切られた時間と、“こちらの都合”が“あちらの都合”に蹂躙され得るという露骨な事実だ。出演予定だった名のある面々は辞退し、日程表には無数の斜線が走った。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=rf0h_0Erd5k,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]