介護の仕事は好きだった。
利用者さんに「ありがとう」と言われる瞬間も、昨日まで無口だった方が少し笑ってくれた瞬間も、入浴後に「さっぱりした」と目を細める顔を見るのも、私は本当に好きだった。
だからこそ、前の職場で自分の心がどんどん削られていくのが、最初は信じられなかった。
勤務表には「日勤」と書かれているのに、実際は早出の人が足りないから30分前に来てほしいと言われる。
休憩は1時間あることになっているのに、ナースコールが鳴れば当然のように戻る。記録が終わらず残っていても、「みんなやってるから」と残業扱いにはならない。
一番つらかったのは、人手不足のしわ寄せを全部現場に押しつけられることだった。
ある日、夜勤明けでふらふらになりながら帰ろうとした私に、主任が言った。
「今日、午後から出られない?急に休みが出て」
私は思わず聞き返した。
「私、今夜勤明けですけど……」
すると主任は、ため息まじりに笑った。
「介護って、そういう仕事でしょ。好きでやってるんだから」
その言葉で、胸の奥がすっと冷えた。
好きだから頑張れることはある。でも、好きだから何をされてもいいわけじゃない。
好きだから無理して倒れるまで働け、という意味ではない。
その月の給料明細を見たとき、私はさらに固まった。休日出勤した分も、残って記録を書いた時間も、ほとんど反映されていなかった。
確認すると、事務の人は小声で言った。
「主任から、これは自主的な勤務って聞いてます」
自主的。
あの日、夜勤明けに呼び止められたことも。人が足りないからと頭を下げられたことも。
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