駐車場に入った瞬間、私は思わず足を止めた。
「すごい停め方……」
黒い高級車が、白線を大きくまたいで斜めに停められていた。
しかも、1台分ではない。
隣の区画まで完全にふさいでいる。
周囲には空いている場所もあったが、週末の駐車場はすでに混雑していた。
その車のせいで、何台もの車が通路をゆっくり進み、空きスペースを見つけても入れずに通り過ぎていく。
私の後ろにいた親子連れも、困った顔で車を止めた。
「ここ、停められないね」
助手席の高齢女性は、杖を持ったまま車内でじっと待っていた。
すると、黒い車の持ち主らしい男性が、飲み物を片手に戻ってきた。
私はできるだけ穏やかに声をかけた。
「すみません。白線をまたいでいるので、隣の区画にも入れないようです」
男性は車を見たあと、面倒そうにため息をついた。
「別にいいでしょ。空いてるんだから」
「今は空いていても、他の人が停められません」
そう伝えると、男性は鼻で笑った。
「そんな細かいこと気にするなよ。ぶつけられるよりマシだろ」
周囲の人たちも、何も言わずにその様子を見ていた。
私は言い返さなかった。
スマートフォンを取り出し、白線、車の位置、周囲の混雑状況を時間入りで撮影した。
そして駐車場の管理事務所へ向かった。
管理人に写真を見せると、すぐに防犯カメラの映像を確認してくれた。
男性は約40分間、2台分の区画を占領していた。
その間、入れずに引き返した車は6台。
さらに、車椅子マークの区画の前まで、後部がはみ出していたことも分かった。
管理人が車の持ち主に移動を求めると、男性はようやく車へ戻った。
しかし、まだ強気な態度は変わらなかった。
「俺だけ注意されるのはおかしいだろ」
すると管理人は、静かに1枚の書類を差し出した。
そこには、駐車場の利用規約と、防犯カメラの記録時間が書かれていた。
「今回は警告だけでは済みません。管理会社から正式に連絡します」
男性は書類を見たまま、何も言えなくなった。
結局、車は正しい位置に停め直された。
その直後、先ほどの高齢女性を乗せた車が、空いた区画にゆっくり入った。
女性は車から降りると、私に小さく頭を下げた。
「助かりました」
たった数分の移動で済むことを、なぜ最初からできないのか。
駐車場は、自分だけが使う場所ではない。
白線の内側に停めるという、最低限のマナーを守るだけで、誰かを困らせずに済むのだから。