「やっぱり、家が一番落ち着くな」
十日ぶりに家へ戻ってきた夫は、玄関に立ったまま、まるで何事もなかったかのようにそう言った。
私は返事をしなかった。
目の前にある台所のカレンダーには、ただ一つだけ予定が残っていた。
明日の夫の診察日。
赤いペンで書かれたその日付は、長い年月、私が欠かさず管理してきたものだった。
病院の予約日。
薬を取りに行く日。
夫が忘れないようにするための大切な予定。
四十一年間、私はそうして夫の生活を支えてきた。
しかし、そのカレンダーを見るたび、今は胸の奥に冷たい痛みが広がる。
十日前、すべてが変わった。
きっかけは、夫のシャツのポケットから落ちた一枚の小さなレシートだった。
近所の定食屋のものだった。
何気なく裏返した私は、そこに書かれた文字を見て手が止まった。
「今日も店を閉めた後で」
たった一言。
でも、その一言が私の四十一年間の結婚生活を揺るがした。
私は震える指で、その中の「今日も」という三文字を指した。
夫はしばらく黙っていた。
言い訳をするでもなく、怒るでもなく、ただ視線を落としていた。
そして、ようやく口を開いた。
「あの店の女性とは……二年続いていた」
その瞬間、時間が止まったようだった。
二年。
夫が毎日「昼を食べてくる」と言って出かけていた時間。
私は疑うこともなく、夕方には温かい夕飯を作って待っていた。
夜、夫が家を空けることはなかった。
だから私は思っていた。
夫は仕事を辞めても、自分なりに一日を過ごしているのだと。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください
引用元:https://www.youtube.com/shorts/E-Nfy4pggIU,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]