私は鹿島。大手自動車メーカー「トラバス自動車」で部品調達を担当している。現場の図面と数字に挟まれながら、品質とコストと納期の均衡を守るのが私の仕事だ。取引先が潰れれば部品が止まり、うちも止まる。だからこそ、私は誠実に、筋の通った交渉を重ねてきた。
ところがある朝、正門前が妙に騒がしい。目を向けると、下請会社の社長が十人、段ボールを敷いて座り込みをしていた。
先頭にいるのは田代社長。かつて「田代式ブレーキ」で名を馳せた老舗の当主だ。
「100万程度で偉ぶるな!」「全社、契約金を3倍にしろ! 無理なら仕事しない!」
拡声器の声が、冬の空気を裂いた。社員の視線が集まり、警備が慌てて動く。だが私は、急いで駆け寄りはしなかった。こういう“見せ場”で主導権を渡せば、交渉は崩れる。
会議室に呼び入れ、私は淡々と告げた。
「契約金の見直しは難しいです。皆さんの受注量と現状の技術レベルでは、増額の合理性を示せません」
すると田代社長が机を叩いた。
「俺たちの技術のおかげで、貴社は儲けてきたんだろう!」
確かに、黎明期に支えてもらった恩はある。だが今は三十年前ではない。
私は言葉を慎重に選びながら、事実を積み重ねた。特許は期限切れ、技術更新は止まり、設備も古いまま。こちらが提示した改善提案に対しても、彼らは「忙しい」の一言で流し続けてきた。
そして、彼らは自ら言ったのだ。「三倍にしなければ仕事をしない」と。
「では、交渉決裂です」
その瞬間、社長たちの顔が強張った。彼らは“脅し”のつもりだったのだろう。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=eyglP69TkIk,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]