私の名は岸本。ランス工務店の営業として、現場とお客様の間に立ち、ただ誠実に積み上げてきた。今日は大手ハウスメーカー「バスターホーム」との親睦会――そして、同日に“10億円規模”の商談が控えている。段取りの一つで会社の未来が変わる、そういう日だった。
ところが当日の朝、バスターホームの担当課長・笹井から電話が入った。声は軽く、悪びれもしない。
「親睦会? ああ、あれね。協力会社とこれ以上仲良くなる必要ある? 別の重要なアポ入ったから、50名分キャンセルで」
一瞬、耳を疑った。しかも彼は「埋め合わせは今度な」と付け足した。だが私は、淡々と返した。
「埋め合わせでは済みません。――本日、10億の商談ですよね?」
沈黙。笹井は笑って誤魔化そうとしたが、私の視線は揺れない。なぜなら、その瞬間、会場の入口に黒塗りの車が止まり、白木社長と役員たちが揃って降りてきたからだ。私は確認するように言った。
「社長と役員の皆様は、すでにこちらに到着されています。……それでもキャンセルでよろしいですか」
笹井の声色が変わった。明らかに想定外だったのだろう。
彼は“下請けの集まり”程度にしか思っていない。こちらが頭を下げて当然、当日キャンセルも許される――そんな常識で生きてきた顔をしていた。
白木社長は、静かに状況を聞き取ると、私ではなく笹井へ向かって言葉を落とした。
「君が“50名キャンセル”と言ったんだね。では、キャンセル料は全額こちらで払う。――ただし、今後の話は別だ」
会場費は終日で30万円。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=oIo3yLclOaI,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]