毎月25日になると、私名義の口座に、家計とは別に3千円ほどの入金があった。最初に気づいたのは、半年ほど前のことだ。
振込人の名前を見ると、聞いたことのない会社名だった。記帳するたびに気にはなっていたが、金額が小さいこともあり、深く追及せずにいた。
夫に何気なく聞いてみると、「振込ミスじゃないか、そのうち止まるだろ」と、あまり関心のない様子で答えるだけだった。
けれど三ヶ月続いても入金は止まらず、むしろ毎月きっちり25日に振り込まれ続けた。念のため会社名をインターネットで検索してみたが、それらしい情報は見つからなかった。
さすがに気になった私は、夫が何か関わっているのではないかと思い、リビングに置いてあった夫のスケジュール帳をこっそり確認したこともある。しかし、特に怪しい予定は見当たらなかった。
半年ほど経ったある夜、通帳をテーブルに広げて、また同じ入金の記録を眺めていた。すると、夫がふらりとやってきて、私の隣に腰を下ろした。
「それ、そろそろ話そうと思ってたんだ」
夫は少し照れくさそうに、通帳の入金履歴を指でなぞった。聞けば、その会社は夫が数年前から個人的に続けている、在宅でできる翻訳の仕事の依頼主だった。
副収入というほどでもない、小さな金額だが、いつか娘の結婚式の費用の足しにできたらと、こっそり私名義の口座に振り込んでいたのだという。
「言うタイミングが、なんとなくなくて」
夫はそう言って、少し気まずそうに笑った。娘はまだ大学生で、結婚の予定などまったくない。それでも夫は、いつか来るその日のために、何年も前から少しずつ準備を始めていたらしい。
怒る気にはなれなかった。むしろ、何も言わずにそんなことを続けていた夫の不器用さに、少しだけ胸が温かくなった。
その夜以来、通帳を見るたびに感じていた小さな不安は、静かな安心感に変わっていった。