今日は、病院で起きた出来事を、少し落ち着いて書こうと思う。奇跡の話と言えば聞こえはいい。しかし、その裏には、冷たさと迷いと、ぎりぎりの現実があった。
夜の産科は、まるで戦場のように慌ただしく動いていた。急きょ搬送された妊婦。その陣痛は早く進み、胎位も少し悪い。スタッフ全員が汗だくで、何度もモニターを確認しながら、必死に走り回っていた。
そんな中で、やっと赤ちゃんが生まれた。
小さな男の子。しわくちゃで、まだうまく色もつかない。それでも整った顔立ちに、私は思わず「かわいい」と口にしてしまうほどだった。しかし——
次の瞬間、病室の空気が一変した。赤ちゃんは泣かない。胸が動かない。顔が青紫に変わり、スタッフは息を呑む。担当医はベテランだ。冷静に背中と足を叩き、呼吸道を吸引し、次々に処置を施す。額からは汗が滴り、緊迫した空気が病室を支配していった。
それでも赤ちゃんは、まるでこの世界に来ることを迷っているかのように静かなままだった。医師は、手を止め、深く息を吐く。「もう、記録の準備をして」と、重く疲れた声で告げる。
その言葉には、諦めの色がにじんでいた。
誰も何も言えない。母親はまだ意識がない。もし目を覚ましたら、この現実をどう伝えるのだろうか。部屋は静まり返り、スタッフはそれぞれ自分の役割を果たし続けるが、心の中では絶望が広がっていった。
その時、かすかな声がした。「もう一度だけ…試してみませんか?」それは実習中の看護師だった。彼女はまだ経験が浅く、どこか頼りない雰囲気があったが、閉じたままの小さな顔を見て、どうしても諦めることができなかったのだろう。
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