入社式の会場は、拍手の音さえも品よく整えられた、いかにも大企業らしい空気に包まれていた。壇上には役員が並び、スクリーンには「ようこそ、未来の仲間たちへ」と映し出される。新入社員たちは新調したスーツの襟を正し、緊張と高揚を胸に座っていた。
その中で、三沢ミサは一人だけ、息を潜めるように背筋を伸ばしていた。高卒、派遣上がり。
ここまで来るのに、彼女は数え切れないほど頭を下げ、数え切れないほど耐えてきた。スーツは母が夜遅くまでかけて選び、裾まで丁寧に縫い直してくれた大切な一着だ。ミサにとってこれは衣服ではない。人生を賭けた“証明”だった。
――その証明は、開始十分で引き裂かれた。
「ねえ、そこ。どける?」
隣の列から歩み出てきたのは、同期のレイナだった。大卒、態度の大きさが自信の証のように見える女。レイナはミサを見下ろすと、笑うでもなく、鼻で息をつく。
「高卒で、しかも派遣上がり? ここ、遊び場じゃないんだけど」
周囲が「やめなよ」と目で訴える。だが誰も声にはしない。止めに入れば自分が巻き込まれる――その計算が、会場の空気を凍らせていた。
次の瞬間、レイナはミサの胸元を掴み、勢いよくスーツを引き裂いた。布が裂ける音は、式典のBGMよりはるかに大きくミサの心を裂いた。
ミサは涙をこらえ、深く一礼した。
「……申し訳ございません。ただ、そのような行為はお控えいただけますでしょうか」
敬語が、逆にレイナの神経を逆撫でした。レイナは肩を揺らし、わざと周囲に聞こえる声で言い放つ。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=Mhq5dofR7-g,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]