大学病院の正面玄関をくぐった瞬間、消毒薬の匂いが胸の奥を刺した。白い天井、規則正しい足音、電子掲示板の淡い光――ここは、かつて私が「医師になる」と誓い、そして医学部を中退して去った場所と同じ空気を持っていた。
受付前で診察券を握り直したとき、背後から聞き覚えのある笑い声がした。振り向けば、白衣ではなく看護師の制服を着た彼女がいた。
元恋人、早川麻里。学生時代、私が解剖学で眠り込み、実習で叱られ、焦りと自己嫌悪に沈むたび、寄り添ってくれたはずの人だ。だが別れ際、彼女は「中退なんて逃げだよ」と冷たく言い放った。
「……久しぶり」
私が挨拶すると、麻里は目を細め、値踏みするように私の全身を見た。革靴は磨いた。スーツも新調した。それでも、彼女の口元は嘲笑に歪む。
「生きてたんだ。医学部を中退した“高卒の貧乏人”さん。元気にしてる? w」
周囲の視線が一瞬だけ集まり、すぐに流れる。病院という場所は、人の尊厳が静かに削られる場でもある。私は何か言い返そうとして、言葉を飲み込んだ。ここで争えば、患者の迷惑になる。何より、彼女の言葉が痛いほど図星だったからだ。
私は中退した。夢を途中で折った。社会に出て、現実の厳しさを知った。誰より自分が、それを恥じてきた。
麻里は勝ち誇ったように続ける。
「ねえ、今なにしてるの? まさかまだ医者になりたいとか言わないよね。ここ、大学病院だよ? 努力した人だけが立てる場所。あなたみたいな――」
そのとき、背後から落ち着いた声が割って入った。
「教授、診察の時間ですよ。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=zA5Dtr9os8c,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]