指定席の番号を何度も確認しながら通路を進んだ瞬間、胸の奥がざわりとした。そこには、すでに年配の夫婦が当然のような顔で腰を下ろしていた。窓の外を眺め、紙袋を足元に置き、まるでそこが自分たちの席であるかのように振る舞っている。私は一瞬、見間違いではないかと切符を見直し、それでも意を決して声をかけた。「恐れ入りますが、ここは私の指定席です」。
返ってきたのは謝罪ではなかった。「老人を立たせるのか。常識を知らないのか」。低く、しかしはっきりとした怒気を帯びた言葉に、周囲の空気が一変した。視線がこちらに集まり、まるで私のほうが無礼を働いたかのような錯覚に陥る。これ以上やり取りを続ければ、車内全体を巻き込む騒動になると直感し、私はいったんデッキへ下がって車掌を呼んだ。
事情を説明し、車掌とともに席に戻ると、状況は想像以上に悪化していた。夫婦はすでに弁当を広げ、注意されても喚き散らすだけでなく、周囲に痰を吐いていた。床や座席の足元は不潔な状態となり、隣の乗客は露骨に顔を背けている。公共の空間で、ここまでの振る舞いが許されるのか。
私は怒りよりも、言葉を失う感覚に襲われた。
最終的に、車掌の取り計らいで私は別の指定席に案内された。表向きは円満解決に見えるかもしれない。だが、心のどこかで割り切れない思いが渦巻いていた。本来なら、正当に切符を持つ私がその席に座っているはずだった。夫婦の態度を見る限り、今回が初めてではないのだろう。まるで、この手口を心得ているかのような落ち着きと傲慢さがあった。
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