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新幹線の車内で、私は久しぶりに「時間が止まる」という感覚を味わった。前の座席に、見知らぬ男が両足を投げ出し、リクライニングを限界まで倒したまま、堂々と居座っている。車掌が何度注意しても、男は酒臭い息を吐きながら笑うだけだった。目の前で起きているのは、単なる無作法ではない。密閉された空間で他人の尊厳を踏みにじる、静かな暴力だった。 前の席に座っていた女性は、最初こそ我慢していたが、やがて肩を震わせ、指定席であるにもかかわらず立ち上がって別の車両へ移っていった。その背中を見送った瞬間、私は数年前のある夜を思い出した(続)
2026/01/14

新幹線の車内で、私は久しぶりに「時間が止まる」という感覚を味わった。前の座席に、見知らぬ男が両足を投げ出し、リクライニングを限界まで倒したまま、堂々と居座っている。車掌が何度注意しても、男は酒臭い息を吐きながら笑うだけだった。目の前で起きているのは、単なる無作法ではない。密閉された空間で他人の尊厳を踏みにじる、静かな暴力だった。

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前の席に座っていた女性は、最初こそ我慢していたが、やがて肩を震わせ、指定席であるにもかかわらず立ち上がって別の車両へ移っていった。その背中を見送った瞬間、私は数年前のある夜を思い出した。

在来線の終電近い車内で、同じように酔った男が前の座席に足を放り出していた。疲れ切ったサラリーマンや学生たちは、誰一人声を上げず、ただ視線を落としていた。私は耐えきれず、その男の前に立った。胸元に小さく光る金色のバッジが見えた瞬間、心臓が一度強く跳ねた。議員バッジだった。

「何をしているんですか」と声をかけると、男は一瞬だけ戸惑い、次の瞬間には怒りを露わにした。まるで自分が被害者であるかのように、こちらを非難し始める。

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その異様さに、周囲の空気はさらに冷え込んだ。私は思わず強い言葉を投げてしまい、その場は険悪な沈黙のまま終わった。

しかし、どうしても胸のざわめきが消えなかった。翌日、私はその男が備前市の市議であることを調べ、議会に非行行為として正式に通報した。しばらくして、議長からの訓戒処分が下り、次の選挙で彼の名前が消えたことを知る。

小さな行動が、確かに現実を動かしたのだと、遅れて実感した。

新幹線の車内に戻る。あのときの自分と同じように、今も誰かがこの場に立ち上がるべきなのだろうか。だが、声を上げればトラブルになるかもしれない。黙って席を替えるほうが楽だと、頭のどこかで囁く声もある。正義と自己防衛、その境界線は思っている以上に曖昧だ。

私は深く息を吸い、車掌に改めて状況を伝えた。

小さな一歩かもしれないが、少なくともあの女性の背中を見送ったまま、何もしない自分にはなりたくなかった。

この出来事を、あなたならどう受け止めるだろうか。密室で他人の尊厳が踏みにじられたとき、私たちはどこまで踏み出すべきなのか。あなた自身なら、どんな選択をするか、ぜひ心の中で考えてみてほしい。

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