子どもは食事していなかった。
――炒飯の皿の上に、立っていた。
個室のテーブルを囲んでいたのは、取引先、上司、親戚。いわゆる“ちゃんとした席”。
私はスマホに目を落とした、たった3秒。
「ん?」と視線を戻した瞬間、光景がバグっていた。
うちの息子、両足で炒飯を踏みしめ、満面の笑みでジャンプ。
ガシャン、と缶が転がる音。
味噌汁の表面に波紋。
時間が止まった。
「すみません!!本当にすみません!!」
私の声だけが空回りする。顔から血の気が引くのが分かった。終わった。全部終わった。社会的にも、母としても。
なのに本人はキラキラの笑顔。
“みんなが見てくれてる=楽しい”の図式。
次の瞬間。
一番厳しそうだった上司が、突然吹き出した。
「この子、今日の主役やな!」
え?
その一言をきっかけに、空気が割れた。
隣の人が言う。
「うちの子は味噌汁にダイブしたで」
向かいの人。
「回転寿司の皿、全部落としたことある」
いつの間にか始まる“我が子の黒歴史選手権”。
さっきまでの緊張が嘘みたいに笑い声が広がる。
私はまだ謝っているのに、もう誰も聞いていない。
息子は抱えられて連行、足を洗われる。
炒飯は静かに下げられ、新しい料理が運ばれてくる。
あの席は「最悪の食事会」だったのか、
それとも「語り継がれるネタの夜」だったのか。
正直、今でも分からない。
もし同じ場面にいたら、あなたは笑えますか?
それともやっぱり怒りますか?
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