深夜二時。雨に濡れたアスファルトが街灯を鈍く反射し、コンビニの蛍光灯だけが不自然に白く周囲を切り取っていた。店内の静けさを破ったのは、店長の怒鳴り声だった。
「汚いじじいがまた来やがった。おい、あっちへ行け!」
裏口の扉のそばに、六十代後半と思しき老人が座っていた。白髪は伸び放題で、穴の空いたコートからは雨と埃の混じった匂いが漂う。
靴底には大きな亀裂が走り、指先は寒さで紫がかっていた。
「すみません……」
震える声は、謝罪というより、存在そのものを許してほしいと訴える響きだった。
その背中を見つめていたのが、夜勤のアルバイト店員、田口拓也――二十二歳の大学生である。故郷で一人暮らしをする祖父の姿が、ふと脳裏をよぎった。胸の奥が重く沈み、見過ごせない痛みが広がる。
拓也は「ゴミを捨ててきます」と店長に告げ、バックヤードから外へ出た。雨の中、少し離れた場所に老人の後ろ姿が見える。拓也は意を決して声をかけた。
「おじさん、ちょっと待ってください」
手にしていたのは廃棄予定の鶏そぼろ弁当だ。賞味期限は二時間前に過ぎていたが、冷蔵庫で保管され、まだ十分に食べられる。拓也はそっと差し出した。
「捨てるものなので。…温かいうちに」
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=QVHPgXqvyDs,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]