京都を出て、ほんの数分だった。新幹線が加速したその瞬間、車内に突然、耳を裂くような泣き声が響いた。「ぎゃあああああ!」一歳くらいの子どもが、完全に制御不能なほど泣いていた。可愛らしい泣き方ではない。喉が潰れそうな、必死な泣き声だった。さっきまでスマホを見ていた人も、目を閉じていた人も、一斉に顔を上げた。車内の空気が、一瞬で凍りついた。
視線は、何も言わずに一点に集まる。泣いている子どもを抱えた母親だった。
母親は何度も頭を下げながら、小さな声で「すみません」を繰り返していた。そして耐えきれなくなったように立ち上がる。背中にはリュック、手には大きな手提げ、腕の中には泣き叫ぶ子ども。誰にも頼らず、誰にも頼れず、逃げるように連結部へ向かっていった。ドアが閉まっても泣き声は消えなかった。むしろ、連結部からはっきりと聞こえてくる。その音は、子どもの泣き声であると同時に、「もう限界です」と叫んでいるようにも聞こえた。
座席に座ったまま、私は何度も心の中で迷っていた。声をかけるべきか、でも不審者だと思われたらどうしよう。
今の時代、下手に関わるのは危ないかもしれない。そう考えている間にも、泣き声は続く。周囲の人たちは視線を逸らし、何事もなかったかのようにスマホに戻っていく。誰も悪くない。でも、誰も動かない。
そのとき車内放送が流れた。「まもなく京都を出発いたします」。その直後、子どもの泣き声はさらに大きくなった。ああ、このままじゃ、このお母さんは本当に潰れてしまう。
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