前職では、社内にある機械の癖も、異音の種類も、俺の手の中に収まっていた。修理課は名ばかりで、実際に現場で工具を握れるのは俺ひとり。設備の稼働率が会社の命綱だと知っている社長も上司も、俺の存在を当然の前提として扱っていた。順風満帆に見えたのは、その「当然」が崩れない限りの話だった。
崩壊のきっかけは、新人の事務担当として入ってきた馬場だった。
年齢は俺より上で、周囲は陰で「新人BBA」と呼んでいたが、本人は肩書きと声の大きさだけで場を支配した。
「修理って、そんなに偉いんですか」
その一言が、彼女の基本姿勢だった。
問題は、彼女が修理の重要性を理解しないことではない。理解しないまま、意思決定に介入したことだ。ある日、得意先で使われている高額設備の部品交換が迫っていた。
あの設備は一台六億。止まれば、得意先の生産ラインが止まり、こちらの信用も飛ぶ。俺は交換部品を百個単位で複数業者に発注し、納品予定も二週間前に確保していた。
ところが前日、部品が届かない。社内の荷物置き場を探しても、どこにもない。総務に確認しても「受け取った記憶がない」。納品書が入っているはずなのに、それも見当たらない。焦りを押し殺し、俺は馬場に発注書の確認を頼んだ。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=Mg4atkwXCJ4,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]