「本当に社長なんですか?なら、証明してみてくださいよ」
梅田の雑居ビル前で、新卒の男が笑いながら言い放った。つなぎ姿の鉄(てつ)は一瞬黙り、次の瞬間だけ声を落とす。
「……お前ら、今の発言を“現場の前”で言った自覚あるか?」
周りの新人たちはクスクス笑い、スーツ姿の金代(かねしろ)専務が肩をすくめた。
「まあまあ。歓迎会の店、僕が“もっと良い所”に変えておきましたし」
鉄はスマホを握りしめたまま、ゆっくりと背を向けた。——この夜が、80人の運命を変えるとは誰も知らなかった。
その日、有行建設の新人歓迎会は大阪・梅田で予定されていた。鉄社長は現場帰りのまま、普段行きつけの“安そうに見える居酒屋”を予約していた。外観は地味だが、おでんと出汁が評判で、海外の客が忍んで来るほどの店だ。鉄は「新人にうまい飯を食わせて親睦を深めたい」と本気で楽しみにしていた。
ところが開始時間になっても、誰も来ない。電話をかけると新人のリクが平然と言う。
「社長、もう店着いてますよ。場所、変更しておきましたから」
「変更?誰が?」
「金代さんです。スーツで秘書連れてるし、社長っぽいじゃないですか」
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