俺の名は川野春敏。社長と名乗ってはいるが、田舎の小さな下請け工場の親方に過ぎない。工場は山と田んぼに囲まれ、社員も少数。派手さはないが、腕と誠実さだけはどこにも負けないつもりで、静かな毎日を守ってきた。
息子の精市は都会へ出て、今は大手の銀行員だ。昔は荒れて、田舎の悪仲間を引き連れて夜な夜な暴走していたが、妻のゆかりと近所の二歳年下の幼なじみ――あんなちゃんのおかげで更生した。
高校に上がる頃には別人のように落ち着き、「将来を真面目に考える」と言った。だが、あんなちゃんはそのタイミングで引っ越してしまい、精市はあからさまに落ち込んだ。親の俺でも、あいつが彼女を特別に思っていたことくらい分かった。
それから年月が過ぎ、俺たちは下請けとして元請けの会社と契約を続けてきた。ところが一か月前、元請けの社長が病気で退任し、息子が新社長に就いた。社員が噂を持ってきた。
「新社長、相当ヤバいらしいですよ。パワハラ、セクハラ、横領――」
嫌な予感がした。そして、それは最悪の形で当たる。
ある日、元請けから突然電話が来たと思ったら、名乗りもせず言い放った。
「納品価格、これから半額でよろしく。
コスト削減だ」
半額など受け入れれば、うちは即死だ。社員の生活を守れない。俺は丁寧に、しかしはっきり断った。
「無理です。契約書にも反します。交渉するなら筋を通してください」
すると受話器の向こうで、社長は下品に笑った。
「これだから田舎の下請けは。社長命令だ、黙って従え」
怒鳴り声が続き、まともに話にならない。俺は「落ち着いて話せるときに改めて」と言って電話を切った。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=cEuzEE4TfNU,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]