外科医として名を上げた同級生・黒川が主催する懇親会に、俺――佐久間遼は招かれた。大学卒業後、派手なキャリアとは無縁で、地方の小さな診療所で「町医者」をしている。正直、場違いだとは分かっていたが、医局のつながりもある。断れば角が立つ。そう思い、ネクタイを締め直して会場へ向かった。
ホテルの宴会場に入った瞬間、視線が刺さった。
白衣ではなくスーツ姿でも、俺が“底辺”側の人間だと見抜かれた気がした。受付を済ませて名札をつけると、案内係が一瞬だけ困った顔をして、壁際の一人席へ通した。周囲は四人掛け、六人掛けが当たり前なのに、俺だけがぽつんと離れている。
乾杯の声が上がり、笑いが弾ける。俺はグラスを持ったまま、誰とも目が合わないように静かに座っていた。すると、少し離れた円卓から、聞き慣れた声が落ちてきた。
「佐久間? あいつ町医者だろ。底辺の町医者と話すと無能が感染るw」
黒川の声だった。周囲がどっと笑う。冗談の形を借りた侮辱は、刃物より鈍く、確実に心を削った。俺は笑って流せるほど器用ではない。ただ、拳を握りしめるしかなかった。
悔しいのは、反論したところで“空気が読めない”と切り捨てられるのが目に見えていたからだ。
そのとき、会場の空気が変わった。入口付近がざわめき、誰かが小声で言った。
「……第一外科の権威、神谷教授だ」
背筋が伸びる。医療界で知らぬ者はいない大物だ。黒川ですら慌てて立ち上がり、笑顔を作って教授の方へ駆け寄っていく。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=eZPppjqDoUY,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]