「大谷選手の言葉に従っていただけです」――そう深々と頭を下げた山本由伸の一言が、会見場の空気を一瞬で変えた。きっかけは、わずか数日前にさかのぼる。大谷翔平が自身のインスタグラムで、2026年WBCへの出場を正式に表明したのだ。その投稿は数分で世界中に拡散し、日本でもスポーツニュース、ワイドショー、ネット番組が一斉に「大谷WBC電撃参戦」を大きく取り上げた。

すぐさま世論の矛先は二人の日本人エースに向かう。「大谷が扉を開いたのだから、山本と佐々木朗希も断る理由はない」「夢の日本三本柱をもう一度」――東京からロサンゼルスまで、メディアは煽り立て、日本最強ローテの“再結成”を当然視し始めた。そんな熱狂の中で、真っ先に追い詰められたのが山本だった。長く続いたレギュラーシーズン、極限の集中を強いられたポストシーズンを終えたばかりの身体には、鈍い疲労がまだこびりついていた。「本当は、出たいんです」山本は会見で、そう正直に口を開いた。「日本の野球少年たちに夢を見せたい。代表のユニフォームには誇りしかありません」――その言葉に嘘はなかった。

しかし次の瞬間、彼は現実も見据える。「でも、ドジャースの将来と、自分のキャリアに対する責任も、同じくらい重いんです」右肩と背中に残る痛み、シーズン中“人間には不可能な頻度”で投げ続けた記憶。WBCに全力で臨めば、MLBシーズンとドジャース双方にリスクを負わせることになる――そう感じていた。そこで山本は、ある人物のもとを訪ねる。

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