「母さん、年金ないなら出ていって」
夕食の支度をしていた私の手が、その一言で止まりました。
振り返ると、和室に座った息子の新一が、まるで他人を見るような冷たい目をこちらに向けていました。隣には腕を組んだ嫁の美咲。二人の顔には、ためらいも罪悪感もありませんでした。
私は七十五歳。三年前に夫を亡くしてから、息子夫婦の家で暮らしてきました。
朝五時に起きて掃除をし、洗濯をし、食事を作り、二人が少しでも働きやすいよう家のことを担ってきたつもりでした。けれど彼らにとって、そんなものは何の価値もなかったのです。
「聞こえなかった? 母さんの年金、月六万円でしょ。正直、家計の足しにもならないんだよ」
その言葉は、胸の奥深くまで突き刺さりました。
大学の学費八百万円も、結婚の時の援助も、息子の家を持つための資金も、私たち夫婦が必死に工面したものでした。夫の収入だけでは足りず、私は長年働き続け、休みも贅沢も諦めて息子に注いできたのです。それでも新一は、私を「役に立たない老人」としか見ていませんでした。
「お母さん、誤解しないでください」
そう言ったのは美咲でした。けれど、その口調に優しさは一切ありません。
「私たちだって生活が大変なんです。お母さんみたいに年金が少ない人の面倒まで見られません」
さらに翌朝、彼女は台所に立つ私から味噌汁の鍋を取り上げ、吐き捨てるように言いました。
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