災害派遣の出動前、隊員たちの荷物チェックが行われていた。規則では、私物の持ち込みは厳しく制限されている。部隊長が険しい顔で隊員たちの背負い袋を一つ一つ確認していく中、ある隊員の荷物から、予想外のものが現れた。
赤ちゃん用の、粉ミルク。
「なんだこれは!貴様が飲むのか!」
鬼の形相で問い詰める部隊長に、若い隊員は、しかし、臆することなくこう答えた。
「はい。自分が飲むものです」
その場にいた誰もが、耳を疑った。屈強な自衛隊員が、赤ちゃん用の粉ミルクを飲むなど、ありえない。しかし、隊員はまっすぐな目で、再び繰り返した。「私が飲むものであります」。
部隊長は、一瞬の沈黙の後、「ならば、しょうがない」とだけ呟き、次の隊員の荷物へと移った。
しかし、その後の点検で、次々と明らかになる真実。他の隊員たちの荷物からも、離乳食やおむつなど、子供用の物資が大量に出てきたのだ。
そう、彼らは知っていた。被災地で、小さな子供たちが、ミルクも、おむつも、温かい食事もないまま、寒さと不安に震えていることを。規則で禁じられていると知りながら、彼らは自らの荷物を減らし、自腹で買った支援物資を、その背負い袋に詰め込んでいたのだ。
「自分が飲む粉ミルクです」。
それは、規則を破ってでも、名も知らぬ子供たちの命を救おうとした、一人の若き隊員がついた、誰よりも優しい嘘だった。
そして、その嘘に気づきながらも、見て見ぬふりをした部隊長。彼らの行動は、ネット上で「隊長もわかってて聞いてたんだよね」「涙が出る」と、多くの人々の心を打ち、称賛の嵐を巻き起こした。
それは、規則よりも人命を優先した、名もなき英雄たちの、静かで、しかし何よりも誇り高い物語である。