「もう、土俵に立たないのか――。」
そのニュースが流れた瞬間、胸の奥がキュッと締めつけられた。“73代横綱・照ノ富士、引退”。何度も逆境を乗り越えた男の、静かすぎる幕引きだった。
テレビ中継で彼の雄姿を見て育った人も、相撲に詳しくない人ですら「名前は聞いたことある」と言う。それほどまでに、照ノ富士という力士は**「物語を背負った存在」**だった。
■ 膝が砕けても、戻ってきた“怪物”
照ノ富士、本名 杉野森 正山。モンゴル出身で、2011年に初土俵を踏んだ。
その体格、パワー、取り口はまさに“怪物”。2015年には大関に昇進し、一気に相撲界の未来を担う存在へ――。
だが、そこからの道は決して順風満帆ではなかった。度重なる膝の怪我。糖尿病と肝機能障害。一時は序二段まで番付を落とし、「引退は時間の問題」とさえ言われていた。
でも彼は、諦めなかった。
相撲の神に見放されても、土俵に戻るために、照ノ富士は何度も立ち上がった。
■ 2021年、涙の横綱昇進
そして2021年、再び大関として優勝を果たし、ついに横綱に昇進。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください