その日の午後、静寂を切り裂いたのは、玄関先を叩く激しいノックの音だった。
時計は午後三時を回ったところ。外回りの営業職である私は、珍しく書類作成のために自宅でリモートワークをしていた。不審に思いながら扉を開けると、そこには制服に身を包んだ二人の警察官が立っていた。一人はベテランの風情を漂わせた警部補、もう一人は緊張で表情を強張らせた若手だ。
「突然の訪問、失礼します。〇〇警察署の者です」
警部補が手帳を広げ、淡々と告げた。その言葉は、私の平穏な日常をいとも簡単に打ち砕いた。
「ご主人の奥様名義で、詐欺事件に関与した疑いがある男が逮捕されました。現在、男の供述により、男が奥様の交際相手である可能性が浮上しています。つきましては、証拠隠滅の恐れがあるため、奥様の住居であるこの場所の家宅捜索をさせていただきます」
頭の中が真っ白になった。妻は平凡な主婦だ。仕事と家事をこなし、たまに友人とランチに行く程度の生活を送っているはずの人間が、なぜ犯罪者と?
「待ってください、何か間違いではありませんか? 妻は今、買い物に出ています」
私がそう言い淀んでいる間にも、警察官たちは捜索令状を提示し、淀みない動作でリビングへと足を踏み入れていた。引き出しが次々と開けられ、妻の私物であるスマートフォンやノートPCが証拠品として袋詰めされていく。静かだったリビングが、一瞬にして殺伐とした取り調べの場へと変貌を遂げた。
「俺……いったい、何と結婚していたんだ?」
胸の奥から湧き上がるのは、怒りよりも深い困惑だった。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=Lax99N54wKk,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]