夜勤を終え、重い足取りでナースステーションへ戻った時だった。
看護師長が、少し困ったような顔で一通の封筒を差し出してきた。
「あなた宛てみたい。さっき、あの男性患者さんが置いていったの」
差出人は、腰の治療で通院している40代の男性だった。
既婚で、子どももいると聞いていた。
嫌な予感を覚えながら封を開けると、最初の一行にはこう書かれていた。
「いつも笑顔がかわいい〇〇さんへ」
私は思わず手を止めた。
手紙には、治療への感謝よりも、私と食事へ行きたいという話ばかりが並んでいた。
焼き肉でもいい。
ステーキでもいい。
夜ならラーメンとライスもいい。
店は看護師さんに任せます。
まるで私が承諾することを前提に、勝手に予定を組んでいた。
最後には、携帯番号、メールアドレス、SNSのIDまで記されていた。
そして、追い打ちをかけるように一文が添えられていた。
「次の診察日に返事を聞くね。会えなかったら病院の入口で待っています」
背中が冷たくなった。
私はすぐに師長へ相談し、個人的な連絡には応じないことを伝えてもらった。
これで終わると思っていた。
だが、数日後。
彼は診察室の前で私を見つけると、周囲の患者がいる前で声をかけてきた。
「手紙、読んだでしょ?」
私は足を止めず、はっきり答えた。
「業務外でお会いすることはできません」
その瞬間、彼の表情が変わった。
「別に変な意味じゃないよ」
「感謝を伝えただけなのに、ずいぶん冷たいね」
断った私のほうが悪いと言わんばかりの口調だった。
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