静かな午後、清水夫妻のリビングはいつもよりも静かに感じられた。ペットのネコ、タロが亡くなってからすでに数か月が経過していたが、部屋の隅々にはまだ彼の思い出が鮮明に残されていた。お気に入りだったタロの毛布や、無造作に置かれた彼の小さな玩具が切ない静けさを醸し出す。

タロとの日々は彼らにとって宝物だった。彼はただのペットではなく、家族の一員であり、日常の何気ない瞬間を輝かせてくれる存在だった。

それだけに、彼を失った悲しみは簡単には癒えないものであった。

ある日、健一さんがいつも通りに出勤し、美咲さんが家で待っていると、窓の外から聞きなれない小さな鳴き声が聞こえてきた。驚いてカーテンを開けると、そこにはまだ生まれて幾日も経っていないように見える、愛らしい仔猫が庭に迷い込んでいた。

彼の毛は短く艶があり、その眼差しは好奇心と少しの不安に満ちていた。

美咲さんは窓を開け、慎重に仔猫を家の中に招き入れてみた。仔猫は特に怯える様子もなく、すぐに彼女に近づいてきて、小さな声で「にゃあ」と鳴いた。

記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください