「雅子には、これまで私や愛子のことにもよく心を配り、私の活動を支えてきてくれています」――天皇陛下のこの言葉どおり、その気遣いぶりは公務の端々にあらわれています。「なんでこんなこと出来るの?」と視聴者を驚かせた場面は、一つではありません。二〇二三年、各国首脳が集う会議で天皇陛下がスピーチを終えられたとき、胸元にしまおうとした原稿が上着のポケットに入らない、という小さなアクシデントが起こります。
周囲が一瞬戸惑う中、雅子様はまるで予期していたかのようにそっと歩み寄り、音も立てずに原稿を受け取り、着物の合わせにすっと挟み込みました。その直後にはインドネシアのジョコ大統領との握手が控えていましたが、表情も姿勢も崩さず、穏やかな笑顔のまま進行は滞りませんでした。ロンドンのホテルを出発する際には、天皇陛下が車中から見送りの人々に手を振られていました。そのとき雅子様は、建物の陰から控えめに頭を下げているホテルスタッフに気付き、「あちらにも」とそっと陛下に伝えられます。最後の一人まで礼を尽くしたいという思いが、ごく自然な一言の形で現れていました。即位前、成田陛下とともに福島県郡山市の避難所を訪れたときも同じです。
体育館の床に膝をつき、被災者一人ひとりと目線を合わせ、肩に手を添えながら話を聞く雅子様。家族の行方が分からないと涙ぐむ人の背中を、何度も優しくさすり、ご自身もつらそうな表情で寄り添われました。本来なら移動だけでも負担となる体調のなか、「苦難に直面する国民に寄り添いたい」という思いだけで被災地行きを決断されたといいます。
ニュージーランド・オーストラリア訪問では、小児病棟で子どもたちと笑顔でことばを交わし、贈られた折り紙の鶴を見て「私の服の色に合わせてくれたのね」とすぐに気付き、「日本に持ち帰っても大切にします」と伝えました。相手の小さな心づかいを決して見落とさない姿に、現地の人々も頬を緩めます。春の園遊会では、突然の雨に濡れる招待客を気遣い、段取りを早めようとする天皇陛下と、少しでも長くもてなしたい雅子様のあいだに、いつの間にか距離が生まれました。
陛下は雅子様の体調を慮りながら、一歩ずつそばへ戻っていかれます。長時間、多くの人と会話することが大きな負担となる雅子様を見守るためです。互いに相手を思いやるその姿は、歌舞伎俳優・片岡仁左衛門さんとの会話がピンマイクで収録された映像とともに、多くの視聴者の心に残りました。国民の中に入り、話に耳を傾け、誰よりも細やかに「相手の気持ち」を受け止めてきた雅子様。英語でも日本語でも、ことば以上に、場にいる人々を和ませる力があります。「なんでこんなこと出来るの?」――その答えは、特別な魔法ではなく、一人ひとりを決しておろそかにしない、静かな努力の積み重ねなのだと感じさせられます。
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