それは私の最も予想外で心温まる出来事だった。愛猫「トラ」を飼い始めてからもう数年が経ち、彼女は私の家族の一員となっていた。トラは、普段から非常に活発で好奇心旺盛な猫だった。毎日家中を走り回り、窓際で外を眺め、夜には私の膝の上で寝るのが日課だった。しかし、ある日、いつも通り私が帰宅すると、何かがおかしいことに気づいた。

普段なら玄関でお出迎えしてくれるトラが、その日は一切動こうとしなかった。

私はすぐにトラの名前を呼び、手を差し出してみたが、いつもなら嬉しそうに駆け寄ってくる彼女は、まるで石のように動かなかった。最初は驚き、まさか具合でも悪いのかと心配になった私は、何度も名前を呼び続けた。しかし、トラは全く反応せず、ただじっと座ったままだった。

私は焦りながらも、少しずつ近づいて体調を確認しようとしたが、トラはそのまま動こうとしなかった。いつもなら膝の上で寝ているのに、今日はそれすら拒否するように見えた。

彼女はただ、じっと座ったままで、その瞳だけが私を見つめていた。その目は、普段見せる元気なものとは違い、どこか悲しげで、私にはその理由がわからなかった。

「もしかして何かあったのか？」そう思いながら、私はトラの体を優しく撫でながら、その場に座り込んだ。しばらくすると、ようやく彼女が微動だにしない理由に気づいた。トラの足元に、何かが落ちているのが見えた。

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