私たちの家にやってきた猫、名前は「キク」。最初は野良猫として放浪していた彼女が、今では家の一員となり、私たちにとってかけがえのない存在になっていた。しかし、ある日から、キクの様子が少しおかしくなった。最初はただの毛が抜けることに気づいた程度だったが、日に日にその抜け方がひどくなり、やがて毛がバサバサと床に落ちるようになった。

その姿を見て、私は思わず心が痛んだ。

最初、病院に連れて行き、検査を受けた。医師は特に重大な病気は見当たらないと言ったが、キクは毛を抜く行動をやめなかった。それどころか、ますます激しく抜いていく。私は悩んだ。彼女が苦しんでいるのか、あるいは何かストレスを抱えているのかと心配になった。

ある日、ふと思いついたのは、キクが元々野良猫だったことが関係しているのではないかということだった。彼女は人間との接触を避けて、過去の記憶から逃れようとしているのではないかと思った。

キクは私たちに引き取られてから、徐々に人間に慣れ、信頼を寄せてくれるようになった。しかし、やはり心の中ではまだ完全に人間を受け入れきれていないのかもしれない。

そして、次第に私はキクが抱える心の傷に気づき始めた。彼女が過去に経験したであろう寂しさや恐怖、それらが今の行動に現れているのだと感じた。キクは人間を信じることができなかったのか、あるいは信じることに対して恐れを抱いていたのだろう。

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