数年前、僕が働く会社のオフィスは、本当に厳しい状況下にありました。業務は次第に増加し、人員補充も行われました。表面上は効率が良くなるのかと思いきや、部内の空気はむしろ悪化していくばかりでした。新たに加わったメンバーの中には自分の意見を押し付ける人もいれば、些細なことで不満を漏らす人も。結果的にみんなが気を遣い合うようになり、仕事場全体にピリピリと張り詰めた、暗い雰囲気が漂うようになったのです。

そんな状況に危機感を持った社長がある日、信じられない策を導入しました。ある朝、社長がオフィスに連れてきたのはなんと小さな犬でした。その犬は明るい毛色で、どこか愛らしさを感じさせる穏やかな表情をしており、名札には「テツ」と書かれていました。

正直、最初はみんな驚きました。「どうして犬なんか職場に？」という冷笑交じりの声も上がりました。それでも社長は笑顔で「彼がこの会社に必要だと思ったからだよ」と一言。テツは社内を自由に歩き回り、机の下に座り込んだり、社員たちに尻尾を振りながら近づく姿を見せたりしていました。

最初のうちは、「社長の思いつきだよ」と社員たちはあからさまに批判的でした。しかし、数日も経たないうちに、人々の態度が徐々に変わり始めました。疲れてデスクに伏せている社員の足元にテツがやってきて、その手を舐めながら寄り添ったり、荒々しい空気が漂い始めた会議室の中で、テツが無言で誰かの膝に前足をかけて視線を合わせたり。そうした些細な行動をきっかけに、緊張感が不思議と和らいでいったのです。

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