「ごめん。今回は手伝えない」
そう送っただけだった。
たった一行。
それなのに、十年来の友人関係は見事に爆発した。
相手は大学時代からの友人、麻衣。
明るくて、人懐っこくて、困った時だけ私の名前を思い出す天才だった。
普段は連絡がない。
誕生日も忘れる。
近況も聞かない。
でも、困ると必ず電話が鳴る。
「お願い、今回だけ」
この“今回だけ”を、私は何度聞いたか分からない。
レポートの添削。
引っ越しの手伝い。
深夜の愚痴電話。
急な子守り。
結婚式の受付。
転職書類のチェック。
彼女が泣いて電話してきた夜、私は眠気をこらえて二時間話を聞いた。
彼女が彼氏と別れた時、仕事終わりに片道一時間かけて会いに行った。
彼女が「誰にも頼れない」と言えば、私は予定をずらした。
それが友情だと思っていた。
助け合いだと思っていた。
少なくとも、私はそう信じていた。
でも、その日は違った。
金曜の夜。
残業で頭がぼんやりしていた。
スマホを見ると、麻衣から長文が届いていた。
「明日、急に子どもを見てくれる人がいなくなって。朝九時から夕方六時までお願いできない?」
私は画面を見たまま固まった。
明日は母の通院付き添いの日だった。
一か月前から決まっていた。
しかも検査結果を聞く日。
軽く断れる予定ではない。
私は少し悩んだ。
いや、かなり悩んだ。
それでも返信した。
「ごめん。明日は母の病院で一日付き添いがあるから無理」
すぐ既読がついた。
そして、返ってきた。
「そっか。冷たいね」
胸の中で、何かが小さく音を立てた。
冷たい。
その言葉が、やけに重かった。
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