「うそ……バーキン、自転車のかごに置きっぱなしだ!」
電車に乗ってしばらくした頃、突然そのことに気づいた私は、一瞬で血の気が引いた。
朝、駅の駐輪場に停めた自転車。その前かごに、大切なバーキンを入れたままにしてきてしまったのだ。
慌てて足元や座席の周りを確認したけれど、もちろんバッグはない。
最後に見たのは、自宅を出るときだった。
「なんで忘れたの……!」
思わず自分に腹が立った。
その日は朝から時間に追われていた。目覚ましを確認して飛び起き、身支度を済ませると、遅刻しそうな焦りのまま家を飛び出した。
いつものように自転車の前かごにバッグを入れ、駅まで急いだことは覚えている。
ところが、駐輪場に到着したあとの記憶が曖昧だった。
自転車を停めて鍵をかけ、そのまま駅の改札へ向かったような気がする。
「待って……私、バッグを取り出してないよね?」
考えれば考えるほど、嫌な予感しかしなかった。
しかも、置き忘れたのは普通の買い物袋ではない。私にとって大切な高級バッグ、バーキンだった。
もちろん、どんなバッグでも盗まれたら困る。
でも、バーキンとなれば話は別だ。
簡単に買い直せるものではないし、金銭的な価値だけでなく、自分にとっても思い入れのあるものだった。
「終わった……絶対なくなってる……」
電車の中で、私は何度もそうつぶやいた。
すぐに引き返せば、まだ間に合うかもしれない。
そう考えたものの、その日にはどうしても外せない予定が入っていた。
しかも、短時間で終わる予定ではなく、帰れるのは夜になってからだった。
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