「子どもがいるんですけど!高齢者だからって、うちが席を譲る必要あります?」
満席の新幹線で、母親のその一言に私は思わず耳を疑った。
ゴールデンウィークの帰省ラッシュ。
自由席はもちろん満席で、通路まで立っている人で埋め尽くされていた。
私は70代の父と一緒に、東京から新幹線に乗っていた。
父は最近、長時間立っていると膝が痛むようになっていた。
それでも私に心配をかけまいと、いつも笑って「大丈夫だよ」と言う。
この日もそうだった。
「お父さん、少し休めるといいね」
「いいよ。若い人も立っているんだから」
そう言いながら、父は手すりにつかまっていた。
車内を見渡すと、3人掛けの座席が目に入った。
そこには母親と小さな子どもが座っていた。
ところが、子どもは1席を使い、さらに隣には大きな荷物が広げられていた。
荷物のせいで、もう1席がほとんど使えない状態だった。
私は最初、声をかけるのをためらった。
子育てが大変なのは分かっている。
子どもが泣けば周囲に気を遣うし、荷物も多くなる。
でも、父の青白い顔を見た瞬間、やはりお願いしてみようと思った。
「あの、すみません」
「こちらの荷物を少しまとめていただけませんか?」
「父が足を痛めていて、少しだけ座らせていただけたらと思いまして」
すると母親は、露骨に嫌そうな顔をした。
「は?」
「子どもがいるんですけど?」
私は慌てて説明した。
「もちろん分かっています。荷物を少し移動していただければ……」
しかし、母親は私の話を遮った。
「小さい子どもがいるんだから、こっちだって大変なんです!」
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